BIMで建物のライフサイクルコストを最適化する方法

建物にとって、初期費用が最も低い選択肢が、本当に最も経済的な選択肢なのでしょうか。

より安価なシステムや材料を採用することで初期投資を抑えることはできますが、エネルギー消費量の増加、頻繁なメンテナンス、あるいは早期の交換が必要になることで、長期的にはより高いコストが発生する可能性があります。

一方で、初期投資額が高くても、建物の運用期間全体を通じて大きなコスト削減につながる場合があります。

したがって、本当の課題は単に建設コストを削減することではなく、現在の意思決定が将来のコストにどのような影響を与えるのかを理解することです。

ここで重要になるのが、ライフサイクルコストという考え方と、構造化された建物・資産データの情報基盤としてのBIMです。これらを活用することで、より適切な長期的コスト判断を支援することができます。

CAPEXとOPEX:建物コストを一体として捉えるべき理由

建物への投資は、建設が完了した時点で終わるものではありません。

建物に関する意思決定が実際にどのような財務的影響をもたらすのかを理解するためには、建物のライフサイクル全体を通じて、設備投資と運営コストを併せて考慮する必要があります。

設備投資(CAPEX)とは

Capital Expenditure(CAPEX)とは、建物や設備の新設、改修、または交換のために行われる大規模な投資を指します。

これには、建設、大規模改修、設備の購入、システムのアップグレード、主要な資産の交換などが含まれます。

これらの意思決定には通常、多額の初期支出が伴い、その後何年にもわたって建物の性能や運用コストに影響を与える可能性があります。

運営コスト(OPEX)とは

Operating Expenditure(OPEX)とは、建物を継続的に運用するために必要となる費用を指します。

これには、エネルギー費、メンテナンス費、修理費、光熱費、施設運営費などが含まれます。

CAPEXとは異なり、OPEXは建物の運用期間を通じて継続的に発生し、不動産を所有・運用するための総コストの大きな割合を占めます。

一方を最適化すると、もう一方が増加する可能性がある理由

CAPEXとOPEXは、多くの場合、密接に関連しています。

より低価格な設備を選択すれば初期投資を抑えることはできますが、その設備のエネルギー消費量が多い、頻繁なメンテナンスが必要である、または早期に交換しなければならない場合、その結果としてOPEXが大幅に増加する可能性があります。

一方で、より高効率な設備や耐久性の高い材料に対して初期投資を増やすことで、長期的にはエネルギー消費量、メンテナンスの負担、交換コストを削減できる可能性があります。

したがって、目標はCAPEXまたはOPEXのいずれか一方を個別に最小化することではなく、建物のライフサイクル全体を通じた両者の総合的な影響を理解することです。

これが、ホールライフコスト(Whole-Life Cost)および総支出(Total Expenditure:TotEx)の基本的な考え方です。

つまり、建物に関する意思決定は、取得や建設にどれだけの費用がかかるかだけでなく、そのライフサイクル全体を通じて、運用、維持管理、交換にどれだけの費用がかかるかという観点からも評価する必要があります。

建物所有者にとってライフサイクルコストの可視化が重要な理由

建物所有者にとって、不動産にかかるコストは、当初の建設予算だけにとどまりません。

材料、HVACシステム、ファサード、照明、電気設備など、設計段階で行われる選択は、その後数十年にわたり、エネルギー消費量、メンテナンス要件、更新周期、運用コストに影響を与える可能性があります。

こうした長期的なコストへの影響を理解することは、より適切な投資判断を行ううえで不可欠です。

初期コストは全体の一部にすぎない

建物は30年、50年、場合によっては60年以上にわたって使用されることがあります。一方で、その長期的な経済性を左右する多くの意思決定は、建設が始まる前の段階で行われます。

材料やシステムの初期費用は比較的簡単に比較できますが、それらが長期的にどのような影響を及ぼすかは、必ずしも明確ではありません。

例えば、初期費用の安いHVACシステムは、その使用期間を通じて、より多くのエネルギーを消費し、頻繁なメンテナンスを必要とする可能性があります。

一方、より高価なシステムは、初期投資こそ大きくなるものの、運用コストを抑え、より長い耐用年数を確保できる場合があります。

したがって、建物所有者にとって重要なのは、

「この建物を建設するのにいくらかかるのか」

ということだけではなく、

「この判断によって、建物の使用期間を通じた運用・維持管理にどれだけのコストがかかるのか」

という点まで考慮することです。

早期の意思決定が将来のコストを大きく左右する

主要な設計内容や仕様が確定した後に変更を行うと、追加コストが発生しやすく、建物の運用への影響も大きくなり、技術的にも対応が難しくなる場合があります。

例えば、建設完了後に非効率なシステムを交換する場合、多額の追加投資が必要になるだけでなく、通常の建物運用にも支障をきたす可能性があります。

そのため、コストに関する判断では、判断内容そのものと同じくらい、その判断を行うタイミングも重要です。

異なる設計、設備、材料の選択肢を早い段階で比較・評価できれば、それだけ初期投資と将来の運用・維持管理コストとのバランスを最適化できる可能性が高まります。

言い換えれば、コスト最適化は、建物がすでに運用を開始してから取り組むものではありません。

将来の保有・運用コストにまだ影響を与えられる段階から検討を始める必要があります。

運用コストは数十年にわたり積み上がる

建設コストを慎重に管理していたとしても、建物を運用する限り、毎年さまざまな費用が発生します。

エネルギー費、メンテナンス費、修繕費、設備更新費、施設運営費などは、ライフサイクル全体を通じて積み重なり、不動産の総コストの大きな割合を占める可能性があります。

このため、ライフサイクルコストを可視化することが重要になります。

建物に関する意思決定を初期価格だけで評価するのではなく、CAPEX、OPEX、資産性能、将来の更新・交換要件まで含めて、長期的な影響を評価する必要があります。

建物所有者にとっての目的は、投資時点で単に最も安価な選択肢を見つけることではありません。

重要なのは、その意思決定が建物のライフサイクル全体を通じてどのような財務的影響をもたらすのかを把握し、それに基づいて投資判断を行うことです。

より適切な設備投資判断を支援するBIM

大規模な建物投資において、コスト管理は建設開始よりもはるか前の段階から始まります。

BIMを活用することで、設計情報と数量、構成要素、プロジェクト要件を結び付けることができ、意思決定者は、まだ結果に影響を与えられる段階でコストを評価し、変更を検討するための、より明確な判断材料を得られます。

BIM cost management

BIMにより数量を把握しやすくなる

従来のコスト見積では、複数の図面や資料から数量を拾い出す作業が必要となることが少なくありません。

BIMは、数量、面積、構成要素、材料、設備などに関する情報を、より構造化された形で提供できるため、数量拾いやコスト見積に必要なデータを取得しやすくなります。

また、設計変更が発生した際にも、コスト情報を更新しやすくなります。

図面を一から繰り返し計測するのではなく、BIMモデルに含まれる情報を活用することで、設計の進展に合わせて数量を更新することができます。

国土交通省においても、従来の図面ベースの手法と比較し、BIMを活用したワークフローによって作業負荷を軽減できるかという観点を含め、BIMを用いた建築コスト算出に関する検討が行われています。

BIMにより設計・仕様の選択肢を比較しやすくなる

初期価格が最も低い選択肢が、必ずしも最適な投資判断であるとは限りません。

建築プロジェクトでは、初期コスト、性能、耐久性、エネルギー効率、想定耐用年数など、それぞれ異なる条件を持つ複数の選択肢を比較する場面が多くあります。

BIMは、こうした選択肢を比較するために必要な設計情報や構成要素の情報を整理するうえで役立ちます。

例えば、あるHVACシステムは初期コストが低い一方で、別のシステムはより高い初期投資を必要とするものの、優れた省エネルギー性能と長い耐用年数を備えている場合があります。

こうした選択肢を関連するコストデータと併せて評価することで、意思決定者は初期価格だけでなく、建物のライフサイクル全体を通じて、どの選択肢がより高い価値をもたらす可能性があるかを検討できます。

BIMにより設計変更をより早期に把握できる

設計変更がプロジェクト後半で発生・判明すると、コスト管理はより難しくなる可能性があります。

一つの構成要素の変更であっても、数量、接続するシステム、工事範囲、関連する設計要素に影響を及ぼすことがあります。

BIMによって建物全体を整合性の取れたデジタル情報として維持することで、プロジェクトチームは変更内容とその潜在的な影響を、より早い段階で把握しやすくなります。

数量、構成要素、設計範囲、システム間の関係に生じた変更を、施工がさらに進む前に確認することができます。

こうした変更を早期に把握できるほど、プロジェクトチームは代替案を検討し、設計を調整し、不要なコストを回避できる機会が増えます。

この意味で、CAPEX管理におけるBIMの役割は、単に「コストを算出する」ことではありません。

設計上の意思決定が投資額にどのような影響を与えるのかを、変更に伴うコストが増大する前の段階で意思決定者が理解できるよう支援することにあります。

BIMによる運用コスト削減の支援

建物が運用段階に入ると、エネルギー消費、メンテナンス、修繕、日常的な施設管理を通じて、コストは継続的に発生します。

BIMそのものがこれらのコストを直接削減するわけではありませんが、正確かつ構造化された建物情報を運用データと連携することで、非効率な部分の特定や、より適切な意思決定を支援し、長期的なOPEX削減につながる可能性があります。

BIM cost management

より適切な資産情報がメンテナンスを支援する

効果的なメンテナンスを行うためには、どのような資産が存在し、どこに設置され、どのように維持管理すべきかを把握することが重要です。

BIMには、設備仕様、設置情報、設置場所、想定耐用年数、メンテナンス情報などを保持したり、関連付けたりすることができ、施設管理チームにとって、より構造化された資産情報源として活用できます。

資産を特定するために、個別の図面、マニュアル、スプレッドシートをそれぞれ確認する代わりに、メンテナンス担当者は、連携された建物データ環境の中から対象資産に関連する情報へアクセスできます。

これにより、メンテナンス計画を支援し、設備情報へのアクセス性を向上させるとともに、修繕、交換、継続的な資産管理に関する意思決定を支える、より信頼性の高い情報基盤を構築できます。

BIMはエネルギーに関する意思決定を支援できる

エネルギー費は、建物の運用期間中に継続的に発生するコストの中でも、大きな割合を占めることが少なくありません。

BIMは、エネルギーデータ、設備性能情報、センサーデータ、建物運用データなどと組み合わせることで、建物や設備に関する有用なコンテキスト情報を提供できます。

例えば、BIMを利用することで、特定の空間やゾーンをどの設備が担当しているかを把握できる一方、運用データからは、その設備が実際にどのように稼働しているかを確認できます。

これらの情報を組み合わせることで、エネルギー利用の非効率性を調査し、設備性能を比較し、建物のエネルギー性能を改善する機会を特定しやすくなります。

BIMそのものが自動的にエネルギー消費量を削減するわけではありません。

その価値は、運用データやエネルギーデータをより有効に活用するために必要となる、構造化された建物情報を提供できる点にあります。

より適切な情報管理が運用上の非効率を軽減する

OPEXは、エネルギー費や設備の物理的なメンテナンスだけで構成されるものではありません。

運用業務では、情報の検索、資料間の整合確認、記録の更新、チーム間の調整などにも、多くの作業時間が費やされることがあります。

構造化されたBIM環境を活用することで、資産情報や建物情報へのアクセスや共有が容易になり、このような非効率の一部を軽減できる可能性があります。

メンテナンス担当者は設備情報をより迅速に確認でき、FM担当者はより一貫性のある資産データを活用でき、不動産管理担当者は複数の情報源間で発生する不要な重複を減らすことができます。

長期的には、こうした情報管理や連携の改善が、より効率的な建物運用につながる可能性があります。

これは、国土交通省がBIMおよび関連する建物データを、エネルギー・GHG削減や維持管理・運用に活用する方向性とも一致しています。また、運用段階でBIMの価値を十分に引き出すためには、他のデータソースと連携させることも重要です。

BIMによるCAPEXと将来のOPEXの連携

現在行う建物に関する意思決定は、その後数十年にわたる運用コストに影響を与える可能性があります。

そのため、設備投資費用は、建物の運用開始後に発生するコストと切り離して評価すべきではありません。

BIMは、初期投資に関する意思決定と、その投資が将来の運用に与える影響を結び付けて検討するために必要な、建物・資産に関する情報基盤を提供することができます。

初期投資の増加が運用コストの削減につながる場合がある

例えば、初期費用は高いものの、より高いエネルギー効率を備えたHVACシステムを考えてみます。

初期投資額は大きくなる可能性がありますが、長年の運用におけるエネルギー消費量の削減によってその差額を補い、継続的な運用コストを削減できる場合があります。

CAPEXの増加
→ 効率の向上
→ エネルギー消費量の削減
→ 長期的なOPEXの削減

同じ考え方は、運用時の性能が財務面に大きな影響を与えるその他の建築設備にも当てはまります。

高品質な材料が将来の更新・交換コストを削減する可能性がある

安価な材料を使用することで初期の建設コストを抑えることはできますが、耐用年数が短い場合、より頻繁な修繕や交換が必要になる可能性があります。

一方、高品質な材料は初期投資が大きくなる場合があるものの、より長期間使用でき、修繕や交換の回数を減らせる可能性があります。

CAPEXの増加
→ 耐用年数の長期化
→ 交換回数の削減
→ ライフサイクルコストの削減

したがって、建物所有者にとって重要なのは、単に現時点でどの材料が安いかではなく、建物の想定使用期間全体を通じて、どの選択肢がより高い価値をもたらすかという点です。

より優れた設備がメンテナンス関連のOPEXを削減する可能性がある

設備選定においても、同様のトレードオフが生じます。

購入価格が低い設備であっても、より頻繁なメンテナンスを必要としたり、より多くのエネルギーや資源を消費したり、早期の交換が必要になったりする可能性があります。

一方で、信頼性や性能の高い設備に投資することでCAPEXは増加するものの、長期的にはメンテナンスコストや運用コストを削減できる可能性があります。

設備CAPEXの増加
→ 信頼性の向上
→ メンテナンス対応回数の削減
→ OPEXの削減

BIMは、こうした意思決定を結び付けるための情報基盤を提供する

BIM単体で、どの選択肢が財務的に優れているかを判断するわけではありません。

BIMの価値は、建物の構成要素、仕様、数量、位置情報、資産情報、ライフサイクルデータなどを、構造化された環境の中で関連付けられる点にあります。

これらの情報を、コスト、エネルギー、メンテナンス、耐用年数などのデータと組み合わせることで、意思決定者は初期価格だけに基づいて投資を評価するのではなく、設計や調達の段階で行った判断が、将来の建物運用コストにどのような影響を与える可能性があるかを検討できるようになります。

これにより、着目すべき問いは、

「この資産はいくらかかるのか」

という問いから、より本質的な次の問いへと変わります。

「この資産は、ライフサイクル全体を通じてどれだけのコストがかかるのか」

個々のコストをそれぞれ最適化するのではなく、ライフサイクル全体を通じたCAPEXとOPEXの関係を理解すること。これこそが、BIMによってより適切な投資判断を支援できる重要なポイントです。

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BIMデータから、より適切なコスト判断へ

ライフサイクルコストを最適化する難しさは、単に建物にどれだけのコストがかかるかを算出することではありません。

重要なのは、複数の選択肢を比較できるよう、早い段階で必要な情報を整え、その情報を建物のライフサイクル全体を通じて有効に活用できる状態に保つことです。

建物情報の構造化が不十分であったり、必要な情報が欠落していたりすると、設計上の選択と、数量、資産、メンテナンス要件、将来の運用コストを結び付けることが難しくなります。

Harmony ATは、こうしたプロセスを支援します。

当社はBIMの専門知識を活かし、設計情報や数量関連データから既存建物の資産情報に至るまで、ライフサイクルの各段階で必要となる建物情報の作成・整理を支援しています。

より信頼性の高いBIMデータ基盤を構築することで、企業や組織は建物情報をコスト、メンテナンス、運用などの業務プロセスと連携させ、より適切な投資判断につなげることができます。

より適切なライフサイクルコスト判断に向けて、BIMデータ基盤を構築しませんか。

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