日本では、BIM/CIMはもはや単なるデジタルエンジニアリングの取り組みではなく、インフラ事業における標準的な手法となっています。しかし、BIM/CIMの真の価値は、3Dモデルの完成度そのものではなく、それを活用してどれだけ質の高い意思決定を行えるかにあります。
特にダム事業では、立地選定や地質評価から施工計画、長期的な維持管理に至るまで、一つひとつの判断がプロジェクトの成否に大きな影響を及ぼします。では、BIM/CIMはダムのライフサイクル全体を通じて、エンジニアリングチームによるより適切な意思決定をどのように支援するのでしょうか。
ダム事業は、インフラ分野の中でも特に複雑かつ高度な技術的課題を伴うプロジェクトの一つです。道路や橋梁、建築物とは異なり、ダムは周辺の自然環境から大きな影響を受けます。

主要な技術的判断を行う際には、地形条件、河川条件、貯水池計画、地質条件、水理条件、施工方法、さらには長期的な運用要件まで考慮しなければなりません。これらの要素は相互に密接に関連しており、一つの変更がプロジェクト全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
適切なダム建設地点を選定するには、単に利用可能な土地を特定するだけでは不十分です。エンジニアは、地形、河道形状、貯水池の範囲、浸水区域、掘削土量などを評価すると同時に、技術面、環境面、経済面のバランスも考慮する必要があります。
これらの要素は互いに影響し合うため、個別に評価するだけでは、対象地域全体の状況や各要素の相互関係を十分に把握することは困難です。
目に見える構造物とは異なり、ダム事業では、重大なリスクの多くが地下に潜んでいます。基礎岩盤の性状、地層構成、断層帯、地下水条件、ボーリング調査結果などは、構造安定性や施工方法に大きく影響します。
こうした情報の多くは、個別の報告書や調査データとして分散しているため、すべての関係者が共通認識を持って業務を進めることは容易ではありません。
ダムは一つの構造物だけで成り立つものではありません。土木構造物、水理構造物、機械設備、電気設備、仮設工、関連インフラなど、複数の要素によって構成されています。
これらはそれぞれ異なるエンジニアリングチームによって設計・検討されますが、計画、設計、施工の各段階を通じて、各分野の設計内容が相互に整合している必要があります。適切な情報管理が行われなければ、分野間の不整合や調整上の問題が生じやすくなります。
ダムは、数十年にわたる長期運用を前提として設計されるインフラ資産です。計画・設計段階で作成された技術情報は、その後も施工、点検、維持管理、改修、さらには将来的な機能向上に至るまで継続して活用されます。
このような長期にわたるライフサイクルの中で、情報の一貫性と信頼性を維持し続けることも、プロジェクトチームにとって大きな課題の一つです。
こうした課題を踏まえると、現代のダム事業では、従来の図面や個別に管理された文書だけでは十分とはいえません。プロジェクトチームには、関係者間の連携を支援し、意思決定の質を高めるとともに、施設のライフサイクル全体を通じて情報の一貫性を維持できる、統合されたエンジニアリング情報環境が求められています。
ダムの建設地点を適切に選定することは、プロジェクト全体の中でも特に重要な意思決定の一つです。ダムは周辺の自然条件と密接に関係するため、周辺環境から切り離して計画・設計することはできません。エンジニアは、建設地点を決定する前に、現況地形、河道形状、貯水池の範囲、浸水区域、掘削土量など、さまざまな条件を総合的に評価する必要があります。それぞれの候補地や設計案は、施工コストや環境への影響だけでなく、長期的な運用性能にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

2D図面や個別の調査報告書だけに依存していては、これらの要素がどのように相互に関連し、プロジェクト全体に影響を及ぼすのかを把握することは容易ではありません。個々の資料に十分な詳細情報が含まれていたとしても、それらが分散して管理されている場合、適切な意思決定に必要となる全体像を十分に把握できないことがあります。
複数案の比較検討は、計画・設計段階におけるBIM/CIMの重要な活用方法の一つです。複数の図面や調査資料を個別に確認するのではなく、地形モデル、河道形状、貯水池の範囲、ダムの配置計画などを共通のデジタル環境に統合することができます。
これにより、エンジニアは異なる建設候補地や設計案をより効率的に比較し、それぞれの案が土工数量や周辺条件に与える影響を評価するとともに、詳細設計に着手する前の段階で潜在的な課題を把握できるようになります。BIM/CIMは単に3Dモデルを作成するためのものではなく、客観的かつ合理的な技術判断を支えるために必要な情報を統合し、活用するための基盤といえます。
ダム事業には、発注者、コンサルタント、設計者、施工者など多くの関係者が関わります。そのため、最適な案を選定するには、すべての関係者が同じ技術情報を共有し、共通認識を持って検討を進めることが重要です。
共通のBIM/CIMモデル上で複数の設計案を可視化することで、プロジェクトチームは技術的な内容をより分かりやすく共有し、一貫したデータに基づいて各案を検討できるようになります。また、関係者間で認識を合わせながら検討を進めることで、より効率的な合意形成にもつながります。
その結果、建設地点の選定プロセスの高度化だけでなく、後工程における設計変更の削減、関係者間のコミュニケーションの改善、さらには最終的に選定された設計案に対する信頼性の向上も期待できます。
優れた設計のダムであっても、必ずしも施工が円滑に進むとは限りません。着工前には、プロジェクトチームがさまざまな実務上の課題について検討する必要があります。例えば、掘削をどこから開始するのか、仮締切堤をどのように構築するのか、コンクリートをどのような順序で打設するのが最も効率的か、仮設アクセス道路や建設機械をどこに配置するのか、といった点です。
特に大規模なダム事業では、地形条件、仮設構造物、本設構造物が相互に密接に関係しているため、2D図面だけを用いてこれらの課題を十分に検討することは容易ではありません。
農林水産省(MAFF)のガイドラインでは、BIM/CIMを設計だけでなく施工計画にも活用し、技術情報と施工情報を共通のデジタル環境に統合することが推奨されています。個々の施工活動を別々に検討するのではなく、掘削工程、仮締切堤の配置、コンクリートの打設順序、仮設アクセス道路、建設機械の配置などを、ダムの3Dモデルとあわせて総合的に検討することができます。
これにより、エンジニアや施工者は、着工前の段階で施工性に関する潜在的な課題を把握し、仮設構造物と本設構造物の取り合いや施工手順をより効果的に調整できるようになります。また、変更に伴うコストや影響がまだ小さい段階で施工方法を見直すことができるため、施工段階での手戻りや追加対応のリスクを抑えることにもつながります。
着工前に施工プロセスをシミュレーションすることで、BIM/CIMは、プロジェクトチームが静的な設計資料を確認するだけでなく、実際にどのような手順で施工を進めるのかという観点から計画を検討することを可能にします。その結果、施工性の向上、施工中に発生する予期せぬ問題の低減、手戻りの抑制、さらには施工計画の確実性向上につながります。
BIM/CIMは、単なる施工用の3Dモデルではありません。着工前に施工計画の妥当性を検証し、エンジニアリングチームと施工チームが共通の情報に基づいてより適切な意思決定を行うための基盤として機能します。
BIM/CIMは、設計や施工のためだけに作成されるものではありません。ダムのライフサイクル全体を支える共通の情報基盤として機能します。計画、測量、設計、施工の各段階で生成されたデータは、その後の点検、維持管理、改修、将来的な更新工事においても活用でき、情報をその都度作り直したり、改めて探したりする必要を減らすことができます。
エンジニアリング情報を連携されたBIM/CIM環境の中で維持することで、プロジェクトチームは設計判断の経緯を追跡し、過去の記録を確認するとともに、必要なときに重要な資産情報へアクセスできます。このような情報の継続性により、情報消失のリスクを低減し、将来のエンジニアリング業務の効率を高めることができます。
BIM/CIMの真の価値は、プロジェクト完了後も長期にわたって発揮されます。施工後に使われなくなるモデルを作成するのではなく、ダムの供用期間を通じて資産所有者を継続的に支援する、常に活用可能なエンジニアリング情報資産を構築することができます。
定期点検の計画、改修方針の検討、将来的な更新工事の準備など、どのような場面でも、エンジニアはゼロから情報を集め直すのではなく、既存の情報を基盤として検討を進めることができます。このようにエンジニアリングに関する知識を蓄積し、再利用できることは、BIM/CIMがダム事業に長期的な価値をもたらす重要な理由の一つです。
BIM/CIMがより良い意思決定をどのように支援するかを理解することは、課題の一部にすぎません。ダム事業でBIM/CIMを効果的に活用するためには、精度の高いモデルを作成するだけでは不十分です。地形、地質データ、各エンジニアリング分野、施工計画、資産情報を、一貫したワークフローの中で統合する必要があります。これを安定して実現するには、インフラ分野に関する専門知識と、BIM/CIMプロセスに対する深い理解の双方が求められます。
多くのエンジニアリング企業にとって、こうした能力をすべて自社内で構築することは容易ではありません。特に、厳しいプロジェクトスケジュール、限られたBIM/CIMリソース、プロジェクト固有の要件に対応しなければならない場合、その負担はさらに大きくなります。経験豊富なBIM/CIMパートナーと連携することで、そのギャップを補い、プロジェクト情報を効率的に作成・調整・納品しながら、チームは本来のエンジニアリング業務に集中することができます。
Harmony ATは、エンジニアリングコンサルタント、施工会社、インフラ資産所有者に対し、初期計画・設計から施工、長期的な資産管理に至るまで、ダム事業の各段階におけるBIM/CIM導入を支援しています。
私たちの支援は、単なるモデル作成にとどまりません。設計案の比較検討、複数分野間の調整、施工計画の高度化、そして資産ライフサイクル全体を通じた信頼性の高いプロジェクトデータの維持に必要となるエンジニアリング情報を、プロジェクトチームが整理・連携・管理できるよう支援します。
インフラ分野におけるBIM/CIMと日本のプロジェクト要件に関する経験をもとに、Harmony ATは、地形モデリング、地質情報の統合、ダムモデリング、施工計画、BIM/CIMの品質管理、Scan to BIM、ワークフロー自動化など、実務に即した支援を提供しています。
その結果、単にプロジェクト要件を満たすだけでなく、構想段階から供用段階に至るまで、より良い技術的意思決定を支えるBIM/CIMプロセスを実現します。
ダム事業およびBIM/CIMに関するご要望について、ぜひHarmony ATまでご相談ください。